INTERVIEW

石井 宏昭(歯科口腔外科)

石井 宏昭(歯科口腔外科)

大学病院並みのアカデミックな環境で
医療がわかる歯科医師の育成を目指す

口腔外科は口腔、顎、顔面、その隣接している組織に現れる疾患を扱う歯科領域の診療科。一般歯科的な治療では扱うことが難しい、外傷から腫瘍までさまざまな外科的治療を要する疾患が対象となる、きわめて医科に近い領域といえる。また悪性腫瘍等、全身の管理を要する患者の歯科治療等でも、医科の医師との連携が不可欠である。川崎市立多摩病院の歯科口腔外科は聖マリアンナ医科大学が指定管理者となっていることから、耳鼻咽喉科や形成外科などの隣接科だけでなく、すべての診療科と連携しながら、治療にあたっている。医学的な見地が広がり、将来的に口腔外科手術や全身管理を学びたい人には理想的な環境だ。歯科口腔外科石井宏昭部長に、研修病院としての魅力について聞いた。

大学病院と同レベルのアカデミックな環境

歯科医師として診療を行うためには、歯学部で6年間学んで国家試験に合格し、その後1年間の臨床研修が義務付けられています。歯科研修医の多くは、う蝕や歯周病の治療、義歯を作る一般歯科を専攻するため、研修先として一般歯科医院や病院の歯科を選択します。これに対し、外科的な治療に興味があり、もっと深く医療を学びたい研修医は歯科口腔外科を研修先に選ぶことが多いです。

川崎市立多摩病院は、聖マリアンナ医科大学が指定管理者になっていて実質的には医学部の附属病院です。従って、全ての診療科の責任者は私のように大学から教授・准教授または講師が派遣され、大学病院と同じレベルの高い診療を行なっています。つまり市立病院でありながら、立ち位置としては大学の医学部附属病院と同じようなアカデミックな施設としての役割を担っています。

例えば、貴重または珍しい症例は学会発表を行い、論文を作成して記録に残します。コロナ患者さんも中等症の症例を中心に全国でも有数の規模で受け入れしています。聖マリアンナ医科大学附属病院には歯科口腔外科がないため、耳鼻科や形成外科では対応が困難な口腔顎顔面領域の疾患は当科に紹介されます。

医科の研修医と共に学ぶ

当科の歯科研修が一般的な病院と大きく違うところは、1年の医科研修医と一緒に医科領域のレクチャー等を受けることが必修となった医学部附属病院ならではのカリキュラムとなっているところです。具体的には週に1回、1年次研修医必修の研修会や講習会があり、救急外来の診療の基本や整形外科では骨折によるシーネの巻き方、耳鼻科では鼻出血や鼻の中の異物の摘出といったような医科の研修を一緒に学んでいただきます。さらに、プライマリケアを考える会、脳梗塞の予防と脳血管治療や慢性腎不全医療連携部会等の医科の研修生が参加する勉強会にも出席してもらいます。最初は戸惑うかもしれませんが、一年もするとある程度理解できるようになります。

最初に医科と歯科の研修を分けてしまう大学附属病院も多いのですが、当院では最初から歯科研修の中に医科研修を組み入れているというのが大きな特徴です。

歯科学部教育の中で医科教育領域の教育が十分に行われている施設はほとんどありません。高齢有病者が増加している現在では、歯科医師になって病気を持った患者さんが来院すると医療の知識不足から、戸惑うことも少なくありません。医科の研修医の中で揉まれながら、一年間、同じ土俵で医療を学ぶことで、ある程度の医学的な見地が身についてきます。医療というバックグラウンドができた上で長い歯科医師としての実臨床に臨むということは、将来的に大変プラスになるのではないかと考えます。

医科と歯科の研修医は同じ居室なので交流が深まり、とても良い関係を築いています。わからないことがあれば医科の研修医に聞いたりして、医科と歯科の情報のやり取りをしやすい環境です。将来にわたって同期の医師との太いパイプができるので、5年後、10年後もわからない病気があれば同期の医師にメールで聞くこともあるようです。困ったときにお互いにやりとりする、医科と歯科のネットワークを構築するための貴重な機会でもあります。

院外での様々な検診、健診事業などへの参加

神奈川県川崎市の歯科医師会が主催する口腔がん検診では口腔外科専門医としても活動しています。口腔がん検診の現場を見学してもらい、検診医が検診者にどのように対応するかを学びます。また川崎市から委託を受けた三歳児の歯科検診を多摩区役所で開催しています。ここでは三歳の子供の口の中を確認しながら保護者の方への説明の仕方を学びます。また、私は神奈川県の障害者歯科医療担当医でもあるので、障害者歯科治療の現場で歯科医師と歯科衛生士がどのように障害を持った患者さんを治療しているかを見学します。これらのことはすべて歯学部6年間の授業において座学では学んでいますが、実際に臨床の現場で経験することは全く違います。このように地域の行政で行っている事業にも積極的に参画し医療にも貢献をしています。

一般歯科の歯科技術も学ぶ

当科では口腔顔面領域の外科的治療を中心に行っており、一般歯科に一番身近な診療は 親知らずの抜歯です。通常は行なっていませんが、入院患者さんのう蝕や義歯の修理など応急的な歯科治療も行うことがあります。歯科研修では基本的な歯科の治療技術も習得する必要があるので、一年間の研修プログラムの中で、提携している二か所の歯科医院で1週間ずつ研修する機会が設けられています。レベルの高い歯科医院で一般歯科治療や、インプラント治療などを学んでいただきます。

修了後の進路で大学院への道も

一年間の研修修了後には引き続き当院で教育研修を継続させていただくことが望ましいのですが、当院の歯科医師数に制限があるため、常勤の欠員枠がない時には、それぞれの研修医の希望に応じた次の勤務先の相談にのっています。大学院に進む方や口腔外科や麻酔科の専門性を高める大学、医療機関でさらに勉強していただく方も多いです。大学附属のアカデミックな施設なので、過去には一年の研修期間中に学会発表をして、その翌年に論文を書いた研修医や、研修修了後に口腔外科の研鑽を重ねて口腔外科認定医や専門医を取得したり、大学院に進み博士号を取得した研修医もいます。

女性のライフイベントも考慮

近年、女性歯科医師数は年々増加しており、当院でも女性歯科医師の活躍に期待しています。研修期間中は女性歯科医師にとって結婚、出産、育児等のライフイベントと重なることが多く、一時的に離職せざるを得ないケースも少なくありません。川崎市立多摩病院でもサポート体制の整備が進んでいます。医科と共通の臨床研修センターを中心に、研修を継続できるような体制や途中で中断したとしても、復帰してから適切に研修が全うできるように考えています。

医療への興味から口腔外科医へ

私が歯科医を選んだのは、当時、医学部や歯学部の人気が高かったからで、歯科医になることを強く望んでいたわけではありませんでした。歯学部に入ってみると、虫歯を削ったり、入れ歯を作ったりという一般歯科の技術的なものではなく、医療に携わりたいという思いが強まりました。歯学部を卒業後は医療に近い口腔外科を専攻しました。
口腔外科には口腔がんのような、直接命に関わるような疾患があります。責任は伴いますが、そういう疾患を治せた時は本当によかったと思いますし、顎変形症のように患者さんが綺麗になって喜んで退院された時は嬉しく、大きなやりがいを感じます。全身麻酔で手術に臨む医科と同じ領域なので、歯学部卒業後は大学医学部の麻酔科研修や救命救急センター、ICUなどを経験し、現在に至っています。

学んだ知識を生かしてほしい

歯学部の教育では医科領域のことを勉強する機会が十分とは言えません。当科ではアカデミックな環境で医科の研修を受けながら、一般歯科以外にのことを広く学びたい方にとっては理想的な研修施設です。医療のことがわかる歯科医師となり、修了後には大学院に進学するか、病院の口腔外科で少なくとも3年か5年ぐらいは勤務しながら、さらなる知識を身に付けようと考えている方にぜひおすすめいたします。

一覧戻る
Hospital Visit病院見学について

川崎市立多摩病院をもっと
知りたい!そんなあなたへ!
実際に当院の様子を
見に来ませんか?