川崎市立多摩病院におけるインフォームド・コンセント
医療者は、患者さんに対し必要な医療を行うときは、実施しようとする医療行為について十分な説明を行い、患者さんの同意を得なければならない。
インフォームド・コンセントとは
「患者さんは医師から十分に説明を受け、患者さんと医療者がともに納得できる医療内容を形成するプロセス」をインフォームド・コンセントという。患者さんは、自らの健康状態(病状)や受け得る医療行為について必要な説明を受け、十分に理解したうえで、自らが受ける医療行為を決定する権利を有する。医療者は、この自己決定権を保証するために必要十分な情報を提供し、アドバイスを与えなければならない。すなわち、インフォームド・コンセントは、医学的な合理性の範囲内で患者さんが求める最善の医療を提供し、より効果的な医療の実現を図るための基本的行為である。
目的
本ガイドラインは、説明と同意に関し、医療者がどのようなことに留意すべきか記載したものであり、当院で適切に運用されることを目的とする。
川崎市立多摩病院における説明書と同意書
- 入院診療計画書
- 心肺停止時における心肺蘇生法に関する説明書と同意書
- 検査、処置等の説明書と同意書
- 手術および麻酔の説明書と同意書
- 麻酔に関する説明書と同意書
- 輸血についての説明書と輸血同意書
- 緊急時やむを得ない身体拘束に関する説明書と同意書
- その他、患者さんの理解を深めるために用いる治療等に関する説明書と同意書
説明について
(1) 説明内容
説明内容は以下の通り。
- 健康状態、病状とその原因
- 治療計画の内容とその必要性
- 代替可能な治療法、その利点と欠点
- 医療行為を行った場合に予測される効果
- 医療行為を行った場合の改善の見込み
- 医療行為に伴う危険性、合併症の有無
- 医療行為を行わない場合の予後等
- 他の医療機関で意見を聞くことのできる権利があること(セカンドオピニオン)
- 同意しない権利があること
(2) 危険性の説明範囲
危険性に関する説明内容は以下の通り。
合併症の発症率などの数値をあげて説明することが望ましい。
- 行う医療行為に伴う、発生頻度の高い合併症や副作用
- 発生頻度が低くても、起こり得る重篤な結果となるもの
- 重大な障害や死亡の可能性
- 新規医療を行う場合は、判明していないリスク発生の可能性
- 一般的なリスクの他、患者さん個人において問題となる個別因子、リスクの高い点について
(3) 説明の時期
医療行為実施前の可及的早期に行うこと。
(4) 説明場所
プライバシーが保護されている場所(病棟では面談室、またはカンファレンスルーム、多目的室等)とする。
(5) 説明者の条件
患者さん及び家族への説明は、本ガイドラインに則り、原則主治医または担当医が説明を行うこと。研修医が説明を行う場合は、指導医が必ず同席すること。
(6) 説明時の同席者(立会い者)
- 原則、医師と看護師及び多職種が同席すること。
- 看護師等が同席できなかった場合は、患者さん及び家族から書類を受け取る際に質問等がないか確認し、看護師署名欄に署名をする。
- 患者さん側は患者さんの希望する者とし、常識的な範囲の数とする。
- ※ 病院側、患者さん側とも複数の同席があることが望ましい。
- ※ 看護師の同席が(原則/可能な限り)必要な説明は、以下の表の通りとする。
定時手術 | 緊急手術 | 侵襲性の高い検査・処置 | がん告知・重要な病状説明 | 合併症・アクシデント発生時 | 今後の療養先の検討 | 入院説明(即日・予定) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
入院 | 原則 | 可能な限り | 可能な限り | 原則 | 原則 | 原則 | - |
外来 | 原則 | 可能な限り | 可能な限り | 原則 | 原則 | - | 原則 |
(7) 説明方法
- 専門用語、外国語の使用は極力避ける
- 患者さんの使用言語に翻訳して説明する
- 医療者側には常識的な事柄でも、かみ砕いて説明する
- 説明資料(図や模型)を活用する
- 患者さんからの質問の機会を妨げない
- 医療者が推奨する医療行為を強要しない
- 理解が得られるまで、繰り返し説明する
- 障がい者への配慮を忘れてはならない
- 説明の場では同意はとらず、説明内容について患者さんに考える時間を与える事が望ましい。
- 患者さん側が希望する医療であっても、医学的合理性がない場合には拒否することができる
同意について
医療者は、医療行為について必要な情報を十分に提供し、医学的な判断を明確に示したうえで、患者さんの自己決定権を尊重すること。
同意は患者さん自らの判断により行うものであり、医療者が強要するような言動はしない。また、説明の場では同意を求めてはならず、必ず説明書を読む時間、考える時間をとらなくてはならない。同意書は説明の翌日、ないし翌々日にもらうようにする。緊急時にも考える時間をとることが必要である。
不同意の場合には、次善の策について説明し、あらためて同意を得る。
(1) 説明および同意の前提となる患者の判断能力
一般的に判断能力については明確な基準はなく、医療行為の侵襲の意味が理解でき、侵襲によってどのような結果が生ずるかを判断する能力があればよいとされている。
(2) 同意者の条件
- 原則として、患者さん本人の同意を必要とする。患者さんが成人で判断能力がある場合は、患者さん本人の署名だけで実施 できる。
ただし、患者さんが意思表明しているが署名することが困難な場合で、患者さんが保護者・保証人・代理人・代諾者へ代筆を依頼している場合はその代理人等が「患者氏名」、「代理人等」欄に記入する。 - 患者さんが未成年(18歳未満)、あるいは意思を表明できない、意識障害などで判断不可能、医学的に不適当と思われるときは、保護者・保証人・代理人・代諾者の同意を得ること。
その際、保護者・保証人・代理人・代諾者が「代理人等」欄に署名し、「患者氏名」欄は空欄とする。
- ※ 「代理人等」欄に署名する場合は、続柄、住所、電話番号を記入する。また、患者さんが署名できない場合の理由を記入する(理由について保証人等が心理的理由等で記入を拒否した場合は記入しなくてよい)。
- 同意書を受領した者は代筆又は代理人の同意となった理由を診療記録に記載すること。
(3) 保護者・保証人・代理人・代諾者の条件
- 患者さんの配偶者、保護者、3親等以内の親族、またはそれら近親者に準ずると考えられるもののうち、満18歳以上の者
- 各自治体のパートナーシップ宣誓制度によって公的に認められたパートナー
- 患者さんが未成年の場合、親権者または未成年後見人
- 患者さんの代理人
(4) 保護者・保証人・代理人・代諾者がいない場合
(川崎市立多摩病院における説明書と同意書(3)、(4)、(5)、(6)の文書に限る)
-
保護者・保証人・代理人・代諾者がいない場合は、説明書・同意書の「代理人等」欄に院長(院長が不在の場合は院長代行)の署名をもらい、理由等を診療記録に必ず記載すること。その際、「患者氏名」欄は空欄とする。
-
患者さんが意思を表明できる状態となった場合、対応者は院長(または院長代行)が署名した書類に患者さんから署名(追記)をもらうこと。
(5)緊急時、保護者・保証人・代理人・代諾者がすぐに来院できない場合
(川崎市立多摩病院における説明書と同意書(3)、(4)、(5)、(6)の文書に限る)
緊急時、保護者・保証人・代理人・代諾者へ連絡し、すぐに来院できない場合は、説明書・同意書の「代理人等」欄に院長(院長が不在の場合は院長代行)の署名をもらい、理由等を診療記録に必ず記載すること。また、保証人等へ説明した内容、反応について診療記録に必ず記載すること。その際、「患者氏名」欄は空欄とする。
保護者・保証人・代理人・代諾者が来院した場合、対応者は院長(または院長代行)が署名した書類に署名(追記)をもらうこと。
※ 保護者・保証人・代理人・代諾者が来院できず、退院時までに患者さんが意思を表明できる状態となった場合、対応者は院長(または院長代行)が署名した書類に患者さんから署名(追記)をもらうこと。
患者本人の判断能力あり | 患者本人の判断能力なし | ||||
---|---|---|---|---|---|
本人が 署名できる |
本人が署名できないが、 代理人へ代筆を依頼している |
代理人が 署名できる |
代理人が いない |
緊急時、 代理人がすぐに来院できない |
|
説明書・同意書 「患者」欄 |
患者本人が記入 |
代理人が記入 |
空欄 |
空欄 |
空欄 *2 |
説明書・同意書 「代理人等」欄 |
空欄 |
代理人が記入 |
代理人が記入 |
院長(院長代 行)が記入 |
院長(院長代 行)が記入 *3 |
診療記録記載 (「代理人等」欄へ署名 となった理由) |
無 | 有 | 有 | 有 | 有 |
*1:後日、意思表明できる状態となったら患者記入
*2:代理人が来院できず、後日、患者が意思表明できる状態となったら患者記入
*3:後から代理人が来院したら、代理人が追記で記入
(6) 院長(院長が不在の場合は院長代行)が署名できない場合
院長(院長が不在の場合は院長代行)から電話連絡にて指示を受けること。医師は、複数人の意見をもとに患者さんにとって最善と考えられる治療方針をとること。
また、その理由等を診療記録と説明書・同意書の「患者さんご本人が署名できない場合の理由欄」へ必ず記載すること。
※ やむを得ず、(4)~(6)以外の運用を行った場合は、その理由等を診療記録と説明書・同意書の「患者さんご本人が署名できない場合の理由欄」へ必ず記載すること。
(7) 特殊環境下(隔離及び災害発生時等)の場合
特殊環境下(隔離及び災害発生時等)において、患者本人及び家族・代理人等による各種文書の署名が困難な場合、患者側署名欄を空欄とすることを可とする。ただし、医療者は必ず診療記録にその理由を記載すること。
(8) 未成年(18歳未満の場合)
- 年齢に関係なく、自己判断できても、原則は家族や親族に電話連絡を行い、十分な説明をする。
- 家族や親族に電話連絡がつかない場合は(4)に準じる
(9) 説明および同意を得る頻度
- 既に説明し、同意を得ている場合でも、患者さんが再度説明を希望する場合、また、患者さんの容態に応じて治療方針を変更する必要がある場合には、適宜その都度説明を行い、同意を得ること。
- 繰り返し行われる検査・治療でも、その都度同意書をもらうことを原則とする。ただし、複数回の検査・治療の予定日が同意書に明記されていれば有効とする。
- 検査日、処置日、手術日が延期等により変更になった場合は、事前に取得していた説明書・同意書は流用せず、新たに説明書・同意書を発行し患者さんの同意を得ること。なお、病院側の都合で変更となった場合は患者さんに理由を説明すること。
- ※ 予約変更センター(電話受付)で画像検査の予約変更を行った場合、新たに同意書を発行できないため、検査日当日に画像診断受付にて同意書の検査日を二重線で訂正し、東西外来受付にて説明医師の訂正印を押印する事をもって訂正完了とする。
(10) 同意の撤回
- 同意を行った者は、一旦、医療行為について同意した後でも、同意を撤回することができる。
- 同意の撤回は、患者さん側が同意撤回文書を病院に提出する。
なお、この文書を電子カルテ内に保存するとともに、医師等は必ず同意の撤回があった事実、経緯および同意の撤回を知った日時を診療記録に記載すること。
署名または記名押印の注意事項
- 署名が直筆の場合は、押印は不要とする。
- 記名(印字、スタンプ等)の場合は、押印を必要とする。
- 説明者または同意者の署名漏れは、適切な同意が得られていないものとして見なされる。
その他留意事項
- 患者さん側が、他の医療機関・医師によるセカンドオピニオンを希望した場合には、積極的にこれに応じること。
- 説明の場で患者さんに同意を求めず、可能な限り患者さんに説明書を読む時間、考える時間を確保すること。
- 説明内容、患者さんの理解度および精神状況などについて医療者の間で情報共有できるよう、診療記録に記載すること。
・ 2017年12月18日制定
・ 2018年2月14日改訂
・ 2020年2月18日改訂
・ 2020年12月15日改訂
・ 2021年9月28日改訂
・ 2022年3月7日改訂
・ 2022年7月26日改訂
・ 2023年3月20日改訂
・ 2023年11月28日改訂